虎ノ尾ヲ践ム5
慶次の唇は驚くほどやわらかで、唇が触れあった瞬間、孫市はぶるっと身震いをした。
孫市は、男である慶次の唇が女のようにやわらかなものだとは全く思ってなかった。 心のどこかで、愛する慶次といえども、男との接吻など気持ちの良いものではないだろうと思っていた。
しかし、慶次の唇はとてもやわらかで、そのふんわりとした感触に孫市は酔った。まるで貪るように、何度も慶次の唇に自分の唇を押しあてては、強く吸い付いた。
だが、慶次との初めての接吻に酔う間もなく孫市の身体は慶次の強い力で押し返された──と、思った瞬間、身体がふわりと浮いたのを感じ、今度は孫市の方が慶次に押し倒されていた。
「なあ、おい・・・孫市、今はさすがにまずいんじゃねえのか。もうちっと待てねえのかい?」
そして孫市が抗議の声を上げる間も与えず、慶次は孫市の身体をぐいぐいと押さえつけながら、諭すような口調でそんなことを云ってくる。
慶次の無粋さに、孫市はチッと舌打ちをした。
「ああ、俺はもう待てないね!これ以上、待つつもりもない!俺はもうずっと待ち続けたんだ!第一、俺を煽るお前が悪い!慶次、観念して俺に抱かれろ!」
慶次が押さえつける腕から逃れようと必死にもがきながら、孫市は叫んだ。
「そんなにムキになることはねえだろ?何も俺は、お前と同衾しないとは云っていない。もう少し待てねえか、と云っているだけだ。それに俺がいつお前さんを煽ったか、俺にはさっぱり解らねえんだがなあ」
慶次は不思議そうに首を傾げながら云った。
「お前が、そんなふうに天然すぎるから、こっちは迷惑してるんだ!とにかく、俺はお前を抱きたい!今すぐ抱きたい!もう待てねえんだよー!」
孫市は尚も、慶次の身体の下から抜け出そうと激しくもがいたが、びくともしない。
「いや、今はだめだ。お前、こんなことで死んでもいいのかい?」
慶次はあくまでも孫市の上に乗ったまま、孫市の顔を見下ろしている。
(こんなこととはなんだ!俺にとっては、重要なことなんだ!)
慶次のその言い草に、孫市は猛烈に腹が立った。
「お前にとってはこんなことかもしれないけどな、俺にとってお前と同衾できるかどうかってのは、重要なことなんだ!お前が云うように、もう少し待った方が良いかも知れないということは俺だって解っている。あるいはお前と同衾すること自体、諦めた方がいいのかもしれない。だがそれでも、俺たちが絶対殺されないとは限らないだろ? もし、本当に信長が俺たちの命を狙っているならばなおさらだ。今日殺されなかったとしても、明日はどうなるか分からない。確実なことは、俺とお前のどちらが死んでも、お前を抱く機会を俺は永遠に失ってしまうということだけだ。お前と同衾できないまま、お前と死に別れるのは絶対御免だ!だったら今ここでお前を抱いて、俺は死にたい!」
孫市は、慶次に噛みつかんばかりに叫んだ。
その孫市の思いの激しさに慶次は当惑した。孫市の己への執心が、これほど強いものだとは思っていなかったからである。
孫市がなぜこれほどまでに己を抱きたがるのか、慶次には全く理解できなかった。しかし、孫市がそう思う気持ちを止めることなどできはしない。
それに孫市の云うことも一理ある。
もし信長が孫市と自分の命を狙っているならば、例え今日殺されずにすんだとしても、必ずやいつかまた、命を狙いに来るであろう。
孫市の望みを叶えないまま孫市が命を落とすようなことになれば、それこそ自分は悔やんでも悔やみきれない思いをするであろうし、その悔恨の情を抱えたまま生きてゆかねばならないのだ。
(とはいえ、もし孫市が殺されたら、俺もそう長く生きてはいねえけどな。いくらなんでも織田軍を相手に一人で戦って、生きていられるわけがねえからなあ)
慶次はそんなことを考えながら孫市の顔を見つめ、やがて諦めたようにため息をつき、孫市を押さえている腕の力を弛めた。
すると孫市は、待ってましたとばかりに慶次の下からするっと抜け出し、再び慶次の身体を押し倒した。
「いいんだな?」
「ああ」
「また力で無理矢理、お前を抱くのを中断させるってのは止めてくれよな。それをやられると心が傷ついちまうんだ」
孫市の声が悲しく聞こえて、慶次は顔をゆがめた。
「ああ、分かったよ。俺はしねえと誓うよ」
慶次がそう云うと、孫市はそのまま慶次にのしかかり、今度は強く唇を押しつけて貪るような接吻をした。
孫市はそのやわらかい唇の感触を楽しむように愛撫し、慶次の唇を開かせた。慶次の口が薄く開いた隙に、舌を滑り込ませ口内を弄る。
「ん・・・まご・・・いち」
慶次の舌に自分の舌を絡め吸い上げるだけで、慶次は熱い吐息を吐きながら、声を漏らし始めた。慶次の顔は紅色に染まり、薄く閉じた目がほんのり潤んでいる。
何度も夢に見た慶次との接吻。
慶次とこうして口付けを交わしていることさえ夢のようなのに、慶次に官能の声まで上げさせている。
その事実に孫市は酔った。
孫市の身体は接吻だけで熱くなり、股間はすでに爆発しそうなほど勃ちあがっていた。
孫市は慶次に口付けていた唇を、そのまま下に這わせ、首筋へと移動させた。そして首筋をチュと音をたてて吸い上げる。その瞬間、喉をくっと仰け反らせた慶次の腰に、すでに勃起し始めていた自分の股間をぐいぐいと押しあてる。そして首筋に唇を押しあてたまま、慶次の小袖をはぎ取るようにして脱がせた。
目の前に現れた眩しいほどの白い肌。
孫市の劣情は酷く煽られた。孫市は無我夢中で、慶次の胸に唇を這わせた。
「慶次・・・好きだ」
唇を這わせる合間、孫市はそう呟きながら唇の位置を徐々にずらし、慶次の胸を飾っている薄紅色の小さな乳首まで這わせた。
そこはすでにぷっくりと立ち上がっていた。
孫市が乳首を舌先で転がすように舐めると、慶次の身体がビクビクと震え、唇から甘い吐息が漏れ始めた。
孫市は左手を慶次の胸に這わせ、指で優しく乳首を愛撫しながら、右手で慶次の股間を覆った。
慶次の陰茎はすでに勃ちあがりかけていて、袴の上からでもその膨らみが分かる。孫市はもどかしい思いで袴の帯を解き、解いた帯と慶次の腹の間に手を滑り込ませた
。褌越しにその膨らみをやんわり握るだけで、慶次のそこは徐々に大きさと堅さを増していった。
孫市が握ったまま上下に軽く擦り上げると、やがて掌では覆いきれないほどの大きさになり、すでに溢れ始めていた先走りの液で布が次第に湿り気を帯びてきた。
「なあ、孫市・・・そこが痛くてたまらねえんだ」
勃起しかけているそれが、褌に締め付けられてよほど苦しかったのだろう。慶次は苦痛に歪めた顔をしながら、孫市に訴えてきた。
慶次の頬は上気して赤くなっている。
そのせいで慶次の顔は、まるで精を放った瞬間の表情のように見えた。
慶次が放つ色香に、孫市は思わずごくりと喉を鳴らした。
孫市はほとんど無意識のうちに慶次の袴に手を掛け、強く引っ張りながら袴を脱がせた。孫市に袴を脱がされた慶次は、その後自ら褌を解き始めた。
慶次が褌を解く姿にくぎづけになりながら、孫市も慌てて自分の袴の帯に手を掛けた。
孫市が見下ろした視線の先には、胸を焦がすほどに欲した慶次の一糸まとわぬ姿が横たわっている。
肉感的な白い肢体、乱れて畳に広がっている淡金色の髪、接吻で濡れた唇、孫市を見つめる潤んだような切れ長の目、引き締まった腹筋、呼吸するたびに上下する厚い胸板、薄紅色の小さな乳首、すでに隆々と怒張している陰茎。
慶次のすべてが孫市の目にまぶしく見えた。
「慶次・・・お前、本当に綺麗だ」
孫市が独り言のように云うと、慶次は喉の奥でクッと笑った。
「俺が綺麗に見えるようじゃあ、孫市の頭はだいぶイカれちまっているんじゃないのかねえ」
「もし俺の頭がイカれちまっているんだとしても、こんなイカれ方なら大歓迎さ」
孫市はそう云いながら、ゆっくりと慶次に覆い被さった。
孫市は両手で慶次の膝裏を持ち脚を大きく開かせ、勃起した陰茎に舌を這わせていた。慶次の陰茎はすでに先走りの汁が滲み、尿道口からたらたらと流れ落ちている。
孫市がその汁を舌で舐め取るようにして擦ると、慶次は切なげな声を漏らし始めた。
慶次の勃起した陰茎は八寸を超える大きさで、孫市の手首ほどの太さがある。
孫市は何度か、慶次のそれを奥深くまでくわえこもうとした。
しかし半分もくわえられないうちに、先端が喉の奥に突きあたり猛烈な苦しさを覚えたので、これはとても不可能だと諦めた。
それでも慶次を感じさせたい一心で、孫市は舌を出して慶次の陰茎を愛撫していた。
「は・・・くっ・・・はぁ・・・」
孫市が陰茎の根本から上に向かって舌を這わせ、唇で雁首を締めるようにしてちゅうと吸い上げると、慶次は苦しげに眉をよせた。すでに慶次が、射精をしたくてたまらなくなってるのは、孫市の目から見ても明らかであった。
しかし射精するには刺激が足らないのか、慶次は焦れたように腰を動かしていた。
「慶次、イキたいなら、イっちまっていいんだぜ」
孫市はさらに慶次を焦らせるために、陰茎に舌を這わせるのを止めてはそんなことを云った。その度に慶次は、首を左右に振り顔を歪める。
そんな慶次の仕草は、孫市の嗜虐心をそそった。
慶次をもっと焦らしてやりたいと思う。
孫市は慶次の陰茎を愛撫するのを止め、陰茎の下にある双玉をぺろりと舐めた。慶次は、孫市がそんなところまで舐めてくるとは思っていなかったのか、双玉に舌が触れたとたん、ギョッとしたような視線を孫市に向ける。だが孫市はそれにかまわず、双玉の片方を口にほおばって音を立てて吸い上げた。すると慶次の身体がビクビクと震え、よほど感じているのか陰茎に触れられてもいないのに、大量の先走りの汁が先端から流れ始め、慶次の陰毛を濡らしていた。
その慶次の酷く淫らな姿態は、孫市の脳を刺激した。
孫市の肉棒が荒々しく頭を持ち上げ、血管が浮き出るほどに怒張している。
(早く、慶次の中に入りたい!)
孫市は慶次の脚をさらに大きく開かせ、はあはあと荒い息を吐きながら、桃色の蕾を夢中で舐めた。
相手はずっと恋い焦がれていた慶次とあって、孫市はそこが汚いとは全く思わなかった。
孫市の舌がそこに触れる度に、慶次はびくびくと身体を震わせた。孫市はその慶次の反応を楽しみながら、さらに蕾を貪るようにねっとりと濃厚に舐める。
舌先で穴を解すようにして舐めると、やがて舌先がわずかに入れられるようになった。
孫市はその隙間に唾液を流し込み、中を濡らしながらさらに舌先を深く差し入れる。
唾液でそこがしっとりと湿り気を帯び、十分に解れたことを確認すると、すでに先走りでべとべとになった己の肉棒を慶次のそこにあてがった。
「慶次、入れるからな。もし辛かったら云ってくれ」
孫市の亀頭が肛門に触れると、慶次の身体がびくっと揺れた。
孫市は慶次の脚の間に身体を割り入れ、そのまま慶次の上に覆い被さった。そして己の亀頭をゆっくり慶次の体内に埋めてゆく。
かなりの抵抗を感じたが、亀頭が慶次の穴を広げ押し入ってゆく感覚は、これまで体験したことがないほどの快感だった。
背筋がゾクゾクした。
慶次の中はとても熱く、性器に肉が絡みついてくる。きゅうきゅうと締め付けられて、少し油断しただけで今すぐ射精してしまいそうであった。
「あっ・・・あああああ・・・!」
尚も孫市が慶次の体内に肉棒を埋めてゆくと、慶次は身体を震わせ叫び声をあげた。
その慶次の顔は、苦痛とも快感とも分からぬ表情をしている。
孫市はその顔を見つめながら、慎重に肉棒を根本まで差しいれた。
「慶次、痛いのか?」
心配になって孫市が声を掛けると、慶次は薄く目を開いて孫市を見た。
「大して痛くはねえよ。だが、すげえ腹が張っているような気がして・・・気持ち悪ぃ」
「ずいぶん酷いじゃねえか、慶次。気持ち悪いって言葉。胸にグサッと来たぞ」
「じゃあ、気持ちいいって云われるように、せいぜい頑張ってくんな」
その慶次の言葉は、孫市に火をつけた。
孫市は慶次の両脚を肩に抱え上げ、腰を前後に揺さぶり始めた。
「ぐっ・・・うげ、げげ・・・げ・・・」
何とも色気のない声が下から聞こえてきたが、孫市はそれを無視して、腰を揺さぶり続けながら、慶次の萎えきった性器を掴んだ。
孫市がその表面を擦り上げ、腰を打ち付けると、慶次の陰茎が次第に固くなってきたが、今度は孫市の性器を締め付けている肉が、よりいっそう強くギュウギュウと締め付けてきた。
孫市はもうどうにもならないほどの強烈な射精感を覚えて、数回慶次に腰を打ち付ける。クッと喉を鳴らしてうなり声を上げ、達する直前、孫市は慶次の奥まで腰を突き入れた。
慶次は自分の体内に孫市の熱いものが流れ込んでくるのを感じて、腰を痙攣させた。何とも形容しがたい感覚に慶次がうめき声を上げると、孫市は恍惚とした表情で、再び勃起したものを容赦なく突き入れ始めた。
射精したばかりだというのに、そこはガチガチに硬い。
それが奥を突いてくると脳天に響くような痛みを感じた。
「慶次、慶次・・・好きだ・・・好きだ!」
だが、うっとりとした顔で孫市がそう云ってくるものだから、慶次は、
「痛てえ」「止めろ」
といった言葉を云えなくなってしまった。
しかし、孫市ががっつくように腰を動かし始めたときはさすがに限界を感じた。
「孫市・・・もうちっと優しく頼む・・・」
荒い息の合間に途切れ途切れに慶次が訴えると、孫市の動きは緩やかになったが、慶次を見る視線がねっとりと濃厚なものに変わった。
孫市は慶次の陰茎を再び掴み、根本から亀頭まで丹念に擦り始めた。
根本を亀頭に向かってぎゅっと扱かれ、慶次は背筋にゾクッとするような快感を覚えた。陰茎がたまらなく熱い。
慶次は、目の前に脱ぎ捨てられていた孫市の着物をギュッと掴み目を閉じた。
「ああっ・・・ああ」
孫市の巧みな手淫で扱かれ、慶次は気持ちが良くてしょうがない。自然に声が出てしまう。わずかに身体を揺らすほどにしか、出し入れしない腰の動きで、身体の奥からも淡い快感が沸きあがってくる。だが、もう少し強烈な刺激が欲しい。
慶次は我慢できずに小さく首を振った。
「慶次・・・もっと激しくして欲しいのか?」
孫市の言葉に慶次はびくっと身体を震わせた。
慶次が孫市に視線を向けると、孫市はニヤニヤした顔で慶次を見つめている。
「いや・・・そういうわけではねえ」
「そうか、ふーん・・・・」
孫市は相変わらずにやけた顔をしたまま、先ほどよりさらにゆっくり焦らすように腰を動かした。
ほとんど動きのないほどゆっくりと擦られ、いつまでも達することができない状況に堪えきれなくなった慶次は、自ら腰を動かし始めた。
「慶次、お前、可愛すぎるぞ・・・もう、たまらねえ」
孫市がうわずったような声でそう云うのが聞こえた瞬間、孫市は慶次の陰茎をきゅうきゅうとしごき始めた。
「くっ──くっ───!」
突然の激しい刺激に、慶次は射精しそうになり眉をよせた。
孫市は片手でがっしりとその慶次の腰を抱え引きつけて、激しく腰を前後させた。
孫市の放った精液せいで、陰茎が肛門を出入りするたびに淫猥な音が室内に響いた。
「はあっ・・・くっ!」
孫市は強弱をつけて挿入の位置を変えてみたり、浅い位置で動かしてみたりと、慶次の反応を見ながら腰を動かしていたが、慶次の陰茎を握る方も巧みに動かすことも忘れてはいなかった。指で亀頭の割れ目を愛撫され、尿道の入り口を擦られた時、慶次はあまりの快感に卒倒するのではないかと思った。
孫市ももう限界に来ているのか、次第に腰を動かす速度が速くなってきた。
慶次の陰茎を握る手も遠慮のない激しいものになっている。
陰茎と最奥の二点を激しく責められ、慶次はもう射精すること以外、何も考えられなくなっていた。
「もう・・・イクッ!」
正常な時なら絶対出せないような恥ずかしい叫び声をあげ、慶次は全身を痙攣させながら射精した。慶次が射精したときの震えが性器に伝わり、孫市も二、三度腰を打ち付けて達した。
「慶次、慶次、好きだ、好きだ」
射精した後、孫市は慶次に深く挿入したまま何度も慶次に口付けた。
慶次を抱くことが出来た喜びで、孫市の心は満たされていた。もうこのまま死んでも悔いはないとさえ思う。
「俺は幸せな男だな」
ふいに独り言のように洩らした孫市の言葉に、慶次は笑った。
「こんなことで、幸せだと感じられるとは、お前はずいぶんと安上がりな男だねえ」
「そうか?俺はかなり欲ばりな男だと思っているぜ。なんせお前との同衾を望むような男だからな」
「そうかねえ?」
「そうさ! んーなことより、もう一合戦やらないか?なあ、なあ、やろうぜ」
孫市は甘えるような視線で慶次を見つめる。
「まだやるのか? お前、二度も達したただろ?」
「ああ。だけどあれは予行練習みたいなもんだろ?本番はこれからさ」
孫市は慶次の耳元でささやいた後、ついばむように慶次の唇をやさしく吸った。